胆膵診療の「ワザ」と「モノ」~消化器内科胆膵診療のご案内~
更新日 令和6年2月26日
茅ヶ崎市立病院の胆膵診療への取り組みについて
胆膵診療ついて
早期発見がカギになる胆膵診療
私たち茅ヶ崎市立病院消化器内科では、胆膵疾患(膵臓、胆のう、胆管、十二指腸乳頭部がん)の診断および治療に力を入れており、CT・MRIの画像検査に加え、EUS(超音波内視鏡)による精密検査を積極的に行っております。
国立がん研究センターの調べでは、2020年の癌死亡予測で膵臓がんは第4位、胆管・胆のうがんは第6位に位置し、胆膵領域のがんはもはや稀な病気ではありません。しかしながら、早期のがんは臨床症状がほとんどないことから、診断が非常に難しいことが現状です。早期膵臓がんの所見として、健診等の腹部超音波検査にて膵管拡張、膵のう胞、膵臓の限局性萎縮が報告されており、腫瘍を発見するにはEUSが重要な役割を担います。
新たな技術を活用し診断・治療に取り組む
この領域は難しい印象があるとは思いますが、近年非常に進歩しております。過去にお腹の手術をされた方には小腸鏡を用いたERCP治療。以前は開腹手術が必要であったお腹の病変には、EUSを用いた検査や治療。胆管や膵管の中に直接入ることができる小型の内視鏡検査も当院では積極的に行っております。
当院で行っている胆膵診療について
茅ヶ崎市立病院では胆膵疾患について、以下のような検査・治療を行っています。
診断
CT、MRI、腹部超音波検査、EUS、EUS-FNA(EUS下穿刺吸引法)
治療
ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)*黄疸や胆石の治療
特殊な検査
小腸鏡ERCP、EUSガイド下ドレナージ、胆道鏡、膵管鏡
胆膵診療の「ワザ」と「モノ」(1)当院で対応している高度医療
経口胆道鏡・膵管鏡 -SpyScope™DS(2)
小型の専用カメラで胆管・膵管の中に入り、診断から治療まで可能
画像提供:ボストンサイエンティフィックジャパン株式会社
超音波内視鏡/観測装置 -UCT/EU-ME2 Premier Plus
先端が超音波の内視鏡を用いて、内臓の精密検査から診断・治療まで可能
画像提供:オリンパスマーケティングジャパン株式会社
小腸鏡によるERCP-SIF-H290S
腹部手術の既往があっても、長い内視鏡を用いて内側から治療が可能
画像提供:オリンパスマーケティングジャパン株式会社
胆膵診療の「ワザ」と「モノ」(2)~胆道鏡・膵管鏡~
胆道鏡・膵管鏡とは
胆管および膵管の中に直接入ることの出来る小型の内視鏡カメラになります。カメラの直径は約3mmで、ERCP用の内視鏡の中を通して胆管・膵管まで挿入することができます。近年の胆道鏡・膵管鏡は、カメラの精度も使用感等の性能も非常に良くなっており、病変の観察のみならず胆石や膵石の破砕治療なども安定して行えるようになりました。当院では令和4年度より年間15例以上の治療実績があります。
胆道鏡・膵管鏡の適応
当院では主に観察と治療に使用しております。
- 観察:胆管や膵管の狭窄の精査、胆管や膵管に発生した腫瘍の精査
- 治療:胆石の破砕治療、膵石の破砕治療
特に難治性胆管結石とされている胆石(15mm以上の巨大な結石、積み上げ結石、合流部の結石、肝内結石症など)の治療に力を入れております。
検査の実際
総胆管結石の胆道鏡下結石破砕術の症例です。
CTでは24mm大の巨大な総胆管結石を認めました。
胆道鏡を胆管に挿入し結石を確認、EHL(電気水圧式結石破砕術)による破砕治療を行いました。術後8日目に退院となりました。
胆膵診療の「ワザ」と「モノ」(3) ~EUS-FNA~
EUS-FNA(超音波内視鏡下穿刺吸引法)とは
EUS-FNAは、EUSの超音波画像を見ながら、専用の針を用いて病変を刺し細胞を採取する検査です。組織診断が困難とされている消化管粘膜下腫瘍、膵腫瘍や胆道腫瘍、その他腹腔内の腫瘍に対し、細胞を直接採取することが可能です。この検査法が確立するまでは診断のための手術が行われておりましたが、EUS-FNAにより安全に組織診断をつけることができるようになりました。当院では年間約60-70例の診療実績があり、正診率(診断の精度)は90%以上です。
専用の針と処置のイメージ
超音波内視鏡の先端から専用の針を出すことができます。超音波で病変を観察しながら針で穿刺し細胞を採取します。
太さや先端の形状の異なる様々な種類の針があります。
EUS-FNAの適応
消化管と接していればどこでも穿刺することが可能です。
穿刺部位 | 対象病変 |
---|---|
食道 | 食道粘膜下腫瘍,縦隔リンパ節など |
胃 | 胃粘膜下腫瘍、膵臓病変、肝臓病変、副腎病変 腹腔内リンパ節など |
十二指腸 | 十二指腸粘膜下腫瘍、膵臓病変、胆道腫瘍 腹腔内リンパ節など |
直腸、結腸 | 結腸粘膜下腫瘍、骨盤内リンパ節など |
検査の実際
胃粘膜下腫瘍に対しEUS-FNAを施行した症例です。
上部消化管内視鏡検査では、胃体上部に20mm大の粘膜下腫瘍を認めました。通常の生検鉗子を用いた生検では胃の粘膜しか採取できません。
EUSでは胃の筋層から発生する腫瘍を認め、専用の針を使用して細胞を採取しました。GISTの確定診断となり、外科的切除の方針となりました。
胆膵診療の「ワザ」と「モノ」(4) ~EUSガイド下ドレナージ治療~
EUSガイド下ドレナージ治療とは
EUS-FNAの技術を応用した処置になります。消化管を介して針を刺すことで、ドレナージ治療(溜まっているものの中身を抜く)が可能となっており、超音波内視鏡下瘻孔形成術として保険収載されております。EUSガイド下治療が確立するまでは、ERCPができない胆管の治療のためにはお腹の外から胆管にチューブを留置するPTBD(経皮経肝的胆道ドレナージ)や手術が、お腹の中にできた嚢胞や膿瘍などの治療には手術が行われておりました。当院では年間約15-20例の治療実績があり、成功率は98%となっております。
EUSガイド下ドレナージ治療の種類と適応
超音波内視鏡下瘻孔形成術は治療対象により、手技に名称がついております。
治療対象 | 手技の名称 |
---|---|
腹腔内嚢胞 腹腔内膿瘍 など |
超音波内視鏡下嚢胞ドレナージ術(EUS-CD) |
閉塞性黄疸 胆管炎・胆嚢炎 など |
超音波内視鏡下胆道ドレナージ術(EUS-BD) -経胃のものEUS-HGS(肝胃吻合術) -径十二指腸のものEUS-CDS(胆管十二指腸吻合) -胆嚢穿刺のものEUS-GBD(胆嚢ドレナージ) |
膵管狭窄 膵炎 など |
超音波内視鏡下膵管ドレナージ術(EUS-PD) |
神経痛 など | 超音波内視鏡下腹腔神経叢ブロック(EUS-CPN) 超音波内視鏡下腹腔神経節ブロック(EUS-CGN) |
治療のイメージ
胃や十二指腸と、近接する胆管をステントでつなぐ治療になります。
検査の実際
膵臓癌による十二指腸浸潤および下部胆管浸潤が当時に発症し、十二指腸閉塞および胆管閉塞となってしまった方。他院でERCPが施行できず、PTBD(経皮経肝的胆道ドレナージ)が施行され、お腹の外から胆管にチューブが挿入されておりました。
当院で十二指腸に消化管ステントを留置し、EUSによる胆道ドレナージ術を行う方針としました。
まず胃内から、肝左葉の肝内胆管を針で刺し造影を行います。胆管と確認しましたら、ガイドワイヤーを胆管に挿入し留置します。
ガイドワイヤ越しに、金属製の胆管ステントを挿入し、胆汁が胃内に流れるように留置しました。
2週間後にお腹の外から留置していたPTBDチューブは抜去でき、退院となりました。
胆膵診療の「ワザ」と「モノ」(5) ~小腸鏡ERCP~
小腸鏡ERCPとは
過去に胃の手術や、胆管・膵臓の手術を受けられた患者さんが、胆管結石や胆管空腸吻合部の狭窄などで、胆管炎や黄疸を発症してしまった場合、通常のERCP用の内視鏡では胆管まで到達することはできません。手術により腸管の解剖が変わってしまっているため、小腸鏡という長い内視鏡を使用することになります。小腸鏡は一般的にはバルーン内視鏡という、風船のついたチューブと組み合わせることで長い小腸をたぐり寄せながら観察出来るように開発された内視鏡であり、これを用いることでお腹の中から胆管の治療を行うことが出来ます。
小腸鏡ERCPが確立するまでは、胆管の治療のためにお腹の外から胆管にチューブを留置するPTBD(経皮経肝的胆道ドレナージ)や手術が行われておりました。
小腸鏡ERCPの適応
過去にお腹の手術を受けられていて、消化管の再建術や胆管の再建術を施行されていた消化管の再建術や胆管の再建術を施行されていた方で、胆管炎や胆石、黄疸を発症された方が適応になります。
消化管の再建術 | 胃の手術+Billroth-II法(ビルロート2法) 胃の手術+Roux-en-Y再建法(ルーワイ再建法) など |
---|---|
胆管の再建術 | 胆管空腸吻合を伴う手術 -肝外胆管の切除 -肝臓の切除+肝外胆管切除 など -膵頭十二指腸切除術 など |
検査の実際
胆管癌で膵頭十二指腸切除術の手術後の方。胆管と空腸を吻合手術でつないでおりましたが、繰り返す急性胆管炎で精査の方針となりました。手術の影響で、小腸鏡を使用しないと吻合部の評価を行えません。
まずは小腸鏡で胆管空腸吻合部を確認したところ、ピンホール状の狭窄を認めました。
胆管造影を行うと、胆石と考えられる透亮像(造影剤の抜け)を認めました。狭窄部を拡張用のバルーンで拡張し、結石除去の方針としました。
結石除去用のバスケットで結石を取り除きました。術後5日目に退院となりました。
茅ヶ崎市立病院として
当院の消化器内科医は横浜市立大学・横浜国際肝胆膵消化器病学機構に所属しており、胆膵領域にて専門性の高い修練を積んできた医師の指導の基、診療を行っております。これまで機器や技術の面で、大学病院やがんセンターでしか行えなかった治療や検査も当院で施行することが可能となっております。
地域に根差した診療を目指しております。胆膵領域が疑われる腹痛や黄疸、体重減少など症状がある場合はもちろん、健康診断の採血異常(肝障害、糖尿病の増悪、腫瘍マーカーの上昇など)、腹部超音波検査での異常(胆管拡張、胆嚢ポリープ、膵管拡張、膵のう胞)、胆膵がんが心配な方がいらっしゃいましたら、いつでも茅ヶ崎市立病院消化器内科にご連絡をいただければ幸いです。
医師の紹介
- 栗山 仁(副院長兼科部長)
-
卒業年 平成8年
医学博士
日本内科学会 認定内科医・総合内科専門医・指導医
日本消化器病学会 消化器病専門医・指導医
日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医・指導医
日本肝臓学会 肝臓専門医・指導医
日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
日本医師会認定産業医
身体障がい者福祉法指定医(肝臓機能障がい)
臨床研修指導医
- 佐藤 高光
-
卒業年 平成21年
医学博士
日本内科学会 認定内科医・総合内科専門医・指導医
日本消化器病学会 消化器病専門医・指導医
日本消化器病学会 関東支部・評議員
日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医・指導医
日本消化器内視鏡学会 関東支部・評議員
日本肝臓学会 肝臓専門医
日本膵臓学会 指導医
日本胆道学会 認定指導医
身体障がい者福祉法指定医(肝臓機能障がい)
臨床研修指導医 - 松本 悠亮
- 卒業年 平成30年
- 池田 佳彦
- 卒業年 平成31年